セント・ジョンのドアノブ事情
ニュー・ブランズウィック州セント・ジョン市。

1877年の大火災により町の大部分が焼失し、その後一気に再建された

ことから、現在もこの町はヴィクトリアン建築の最盛期(1870~1880年代)の

建物で埋め尽くされています。

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(大火災直後の1878年に建てられたことが分かるレンガ造りの商業施設。)


1870年代は一般住宅にこのような立派な玄関がごく普通に作られていた時代。

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大火災で住民たちは多くのものを失いましたが、それと同時に建築技術、

デザインが明らかにグレードアップして町全体が再建されていく様子は

さぞかしエキサイティングだったに違いありません。

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そこで今日は、セント・ジョンの街中で見つけたグレードアップされて

エキサイティングな(笑)ヴィクトリアン・ドアノブたちをご紹介したいと思います。


これらの建具はすべて19世紀後半に作られた米国製ですが、再建された家々に

納品された時期が同じくドアノブ製造の最盛期でもあったことから、今となっては

本国でもなかなか容易に見つけられない最高品質のものばかりです。


まずはこちらのドアノブ。

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この竹梅模様の和風なデザインのドアノブは、1882年に商標登録された

サーゲント社の『イカド』。

わざわざ正面玄関ドアにこのようなドアノブを使うなんて、開国直後の日本が

当時の人々にとって惹かれる対象だったことを表す証拠です。

ちなみに私はこのネーミングは『ミカド(帝)』の間違いだと思っています。


こちらは1875年製のブロンズドアノブ。

アカンサスリーフをモチーフに使用しており、古代ギリシャを髣髴とさせる

典型的な1870年代の流行デザインです。

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このドアノブは『ロイヤリスト・ハウス』と呼ばれる1817年に建てられ大火災に

よる焼失を免れた一般住宅(現在は博物館)で見つけたものですが、家の中の

ドアノブの一部は1870年代~80年代のドアノブに取り替えられていました。

再建中、町中に溢れるドアノブを見た家主さんがうらやましくなって「僕も素敵な

ドアノブほしいわー」なんて思って発注したのかもしれません。


こちらも上の写真と同じスタイル。

1875年製です。

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鍵穴まで素敵なデザインですね。


1870年代はドアノブだけでなくちょうつがいまで凝っていました。

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縁にはグリークキー模様が施されており、グリーク・リバイバル様式が

当時いかに流行っていたかが分かります。


さらに同じ時期、流行っていたのはエジプト趣味。

当時海外旅行をするようになった欧米の上流階級の人々の間では

エジプト観光、ナイル川クルーズが人気だったのです。

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(参考:19世紀の英国人観光客。画像はお借りしています。)


異文化に触れた人々が帰国して求めたのは、エキゾチックな建具・・・

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ということでこの写真はクリスチャン教会の正面ドアですが、とりあえず

格好いいのでファラオのドアノッカーが付いています。


こちらもエジプシャン・リバイバル様式のちょうつがい。

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これのどこがエジプトなのかと言われてもちょっと困るのですが、

あくまでもヴィクトリアン期を生きた欧米の人々が考えたエジプト風

デザインということです。


カナダらしい王冠モチーフのドアノブもありました。

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前述した和風デザインの『イカド』がロゼットに選ばれているところが面白いと

思います。


さて、家中の建具の中で当時の人々が一番こだわっていたのが正面玄関部分。

正面玄関の立派さが家の豊かさを示す一つのバロメーターでしたから、こんな

玄関のお宅を訪ねた人々はドアノブを握る前に息を呑んだに違いありません。

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ドアノブはR&W社による『ハミングバード』(1880年)、2つの鍵穴つきのバック

プレートも同社により1870年代に製造されたものです。

バックプレートをよく見るとフラミンゴがシャンパン飲んでるし、グリフィンが睨みを

きかせてるし・・・いったいこのお宅の家の中はどんなに凄いことになっているの

だろうか・・・と客人にワクワクドキドキさせるのが家主さんの狙いでした。


最後に極めつけの一品を。

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これがドアノブ(オタク)界で圧倒的な支持を得ている伝説のドアノブ『ドギー』。

アンティーク・ドアノブ収集家の夫ですが、一般住宅の玄関に付いているドギーを

見たのはこれが初めてで大興奮。 

1870年にMCCC社によって製造されたこのドギーは、愛くるしい犬の表情と

仕草が取り入れられたデザイン性、鋳造技術の確かさから、コレクターの間で

揺るぎのない地位が確立されています。

でも、やっぱりドアノブはコレクションされるより使われている方がいいですね。

いずれにせよ、セント・ジョンのドアノブ事情、恐るべしです。




blog 最近サボり気味でごめん。by小次郎

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[ニュー・ブランズウィック州セント・ジョン
ティファニー・ランプのある家
NB州セント・ジョン市にあるユダヤ人歴史博物館へ行ってきました。

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1899年に建てられたこの立派な石造りの建物は、もともとはこの町に

住んでいた裕福な一家の邸宅として建てられたものです。


早速中に入ってみましょう。

正面玄関ドアを開けると、さらにもう一枚美しいドアが現れました。

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博物館は一般公開されていますが、このドアは内側から鍵がかかっている

ため、呼び鈴を押して見学希望を伝えなければなりません。

呼び鈴を押すとすぐに受付の男性が出てきて笑顔で出迎えてくださいました。


それでは、お邪魔します。

うわ~オーク材でできた内装が素晴らしいですね!

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豪華なヴィクトリアン・ハウスには欠かせないステンドグラスも

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ミントンタイルで飾られた暖炉ももちろんあります。

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でも、このような珍しい見た目のランプを見ることはなかなかないですね。

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「はい、こちらはかの有名なティファニー・スタジオが手がけたランプですから。」

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受付の男性のお話によると、このランプはこの家の最初の家主が家が購入した

もので、個人邸宅にこのような大きなティファニー・ランプ(高さ約150cmほど)が

あることは非常に稀なんだとか。

鑑定額はなんとこの家の価値より1000万円ほど高く、今後誰がこの家の家主に

なったとしてもこのランプは決して売ってはいけないという約束があるのだそうです。

だから盗難防止のため玄関ドアに鍵がかけられていたんですね~。


応接間はウェッジウッドのジャスパー色。

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この暖炉のマントルピースはもともとはオーク材で出来ていますが、1940年代に

このような色合いに彩色されました。

ジャスパー色の部屋を持つことはかつての女性たちにとって一つの憧れだった

そうです。


2階へ上がる階段。

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家主が変わると、内装がリモデルされたり時代の流行色に合わせたペンキが

塗られたりすることが多いですが、この家はほとんど手がつけられている様子が

ありません。


当時のままの照明も残っています。

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2階の美しいフレット・ワーク。

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こんな素晴らしい木材装飾を今作ってもらおうとしたら色んな意味で大変です。

そのことを理解した上で、代々の家主が先人の素晴らしい手仕事に敬意を

示してきたことが感じられます。


このように当時のまま保存されたヴィクトリアン・ハウスを見学できることは

なかなかありません。

この貴重な建物を一般にも公開してくださるセント・ジョンのユダヤ人

コミュニティーの皆さんに感謝したいと思います。



【おまけ】博物館内のドアノブ。

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ヴィクトリアン期の終焉(1901年)とともに廃れていったドアノブの装飾。

この建具にはネオ・クラシカル様式の繊細な模様が取り入れられており、

1890~1900年頃に製造されていたものとしてはかなり上質なものです。



blog 朝夕、冷えますなー。by小次郎

Posted by aomu0815
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[ニュー・ブランズウィック州セント・ジョン
石の教会にて
19世紀の面影を残す町ニュー・ブランズウィック州のセント・ジョンには、

古い石造りの教会があります。

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こちらがその教会。

見た目の通り、『ストーン・チャーチ』と呼ばれているこの教会は1825年に完成した

もので、カナダに現存するゴシック・リバイバル様式の教会としては最も古いものの

一つとされています。

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1877年のセント・ジョン大火災から奇跡的に被害を免れたこの教会の

石は英国からここまで航海していた船のバラストを再利用したものなんだ

そうです。


早速、中に入ってみましょう。

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あまり華美さはないものの、重厚感のある内装です。

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この教会の建設にあたっては、土地についてはニュー・ブランズウィックの

当時の最高裁判長から寄付されました。

さらに多額の建設費用を賄うため、教会内の座席が売られていたのですが

そういう話なら一役買いましょうと当時の同副総督はセント・ジョンに滞在する

駐屯兵のためにと教会内の座席を一部買い占めました。

そのため教会内の座席の一部には今でも『駐屯兵専用』のパネルが付いて

います。

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それにしても目を引くのはステンドグラス窓の美しさ。

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特にハンドペイント部分がとても繊細で、ヨーロッパのものに引けをとらない

クオリティーです。

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私の写真では上手く伝わらないかもしれませんが、一見の価値あるステンド

グラスです。

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私がパシャパシャと写真を撮っていると、教会の管理人さんがやって来て

この教会の正面中央に飾られているこのステンドグラスの面白エピソードを

教えてくださいました。

「キリスト(中央)の横に並ぶ2人の使徒の首のあたりをよく見てみて。」

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「どことなくチグハグに見えない?」

・・・まさか頭と胴体が左右逆?!


「その通り、昔の職人さんたちも間違えることあったようね。」

まさに弘法にも筆の誤り的なヴィクトリアン職人さんの間違いですが、

言われなければ普通の人はきっと気づきません。



【おまけ】教会のドアノブ

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管理人さんからまもなくこの教会の別館部分が取り壊される予定だと聞いた

夫は、この古いドアノブたちを捨てないでと必死にお願いしていました。



blog あ、あとドアノブは磨かないで!by小次郎

Posted by aomu0815
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[ニュー・ブランズウィック州セント・ジョン
昔の日用雑貨店
約2年ぶりに行って来ました、セント・ジョン!

相変わらずかっこいい街だ~!!

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ニュー・ブランズウィック州の工業都市セント・ジョン。

1877年、木造家屋が建ち並んでいた町の中心部で大火災が起こり

大部分が焼失してしまった教訓を生かして、火災に強いレンガや石材を

用いて再建された町です。

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そして現在も中心地の大部分に19世紀後半のヴィクトリアン建築が残っており、

その素晴らしさを歩きながら楽しむことができます。


前回この町を訪れたときは冬場だったので、公共施設や美術館があまり開いて

いなかったんですが(注:カナダ東海岸では公共レジャー施設やお店が冬場開いて

いないことが多々あります。)、今回は中を見学できそうです。

ということでまず訪れたのがこちら。

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『バーバーズ・ゼネラル・ストア(バーバーの日用品店)』と書いてあるこの

可愛い建物は、19世紀中頃から1940年代までニュー・ブランズウィック州北部で

実際に日用品店として使われていたのだそうですが、1960年代にその歴史的

価値が認識され、現在ではオープン当時の状態を忠実に再現し保存する博物館

(兼観光案内所)として利用されています。

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雨が降ってきたことですし、さっそく中に入ってみましょう。


入り口の扉を開けると、そこにはヴィクトリアン・ワールドが広がっていました。

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まるで映画のセットのようです。

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古いミシンと裁縫用品のディスプレイ。

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これは毛糸を編んでいるときに毛糸がコロコロ転がらないように

するためのカバーですね。

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薬瓶コーナー。

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店内に使われている展示棚ももちろん当時のまま。

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木材を大理石のように見せる塗装加工が施されています。


天井には古いガスランプ。

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ドアにはブロンズ製のアンティークドアノブが。

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今回の旅も面白いドアノブが見つかりそうな予感がします。


案内所の女性に話しかけられたので、この『サプライズ・ソープ』と書かれてある

木箱について伺ってみました。

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というのも、私たちはこの木箱と同じラベルが貼られている古い板を持っている

からです。


カウンターから石鹸を取り出し私たちに見せてくださった女性の説明によると、

この変わった名前の石鹸にはちょっとしたエピソードがあることが分かりました。

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ニュー・ブランズウィック州セント・スティーヴンという小さな町で、1878年から

1940年代にかけて製造されていたこの石鹸。

当初、製造主のガノン兄弟たちは、より多くのマダムに石鹸を買ってもらう

ために、石鹸の中に無作為に10セントを紛れ込ませていたそうなのです。


「あら、石鹸使って手を洗っていたらコインが出てきてビックリ~!」という

うれしいサプライズを狙って『サプライズ・ソープ』という名前で売っていたん

ですが、実際のところ雑貨店に石鹸を買いに来たマダムたちにとっては

そんなサプライズは待ちきれなかったようで、店内でハットピン(帽子に

付けていた飾りピン)を取り出してはブスブスと石鹸を刺しまくってコイン

チェックをするようになったんだそうです。


結果、店内に残された穴だらけの石鹸たち。

「これではいかん!」と気が付いたガノン兄弟たちは10セントを入れるのは

止め、かわりにクーポン券を入れるようにしたそうです。



blog 要はビックリマンチョコと同じ発想。by小次郎

Posted by aomu0815
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[ニュー・ブランズウィック州セント・ジョン
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